目的
令和4年2月の農林水産省の発表では、野生鳥獣による農林水産被害額は、161億円にのぼり、鳥獣被害によって、営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加、さらには森林の下層植生の消失等による土壌流出、希少植物の食害、車両との衝突事故等の被害も問題になっています。
環境省による「捕獲数及び被害等の状況等」(令和3年8月19日現在)によると、捕獲されるイノシシは68万頭、シカは67万頭と年々増加傾向ですが、ジビエ料理として利活用されるのはそのうち1割程度であり、皮のほとんどは廃棄物として捨てられています。
また、畜産業から排出される温室効果ガスや穀物不足も懸念され、生物多様性の観点でも野生動物の利活用が注目されています。
岡山市東区にある環太平洋大学の周辺も、シカやイノシシが大量に生息し、岡山市では年間4000頭のイノシシが焼却処分されています。そこで、2021年9月からスタートしたブランド戦略論の授業は、地元の社会課題解決を目的とし、ブランド構築に取り組みました。
また、文部科学省が推進しているESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)も意識し、ジビエを通じて、命の大切さを伝えることも狙いとしました。
IPU Gibierを通じて解決したい社会課題
ブランド戦略論の担当講師である扇野睦巳(株式会社ファーストデコ 代表取締役)は、2021年4月よりジビエレザーやエシカルレザーの普及促進を行う一般社団法人やさしい革(所在地:東京都墨田区/代表理事:山口明宏/以下やさしい革)の理事メンバーでもあることから、学生と共に、産学官連携で人と動物と食に関わるサステナブルサプライチェーンの構築に挑戦。学生目線で、ジビエをもっと身近に感じられる商品づくりを行い、まずは大学のある岡山市東区瀬戸地区の野生鳥獣問題解決に取り組んでいます。
いきさつ
2021年度後期ブランド戦略論では9グループのうちの1グループがジビエレザーをテーマにしたことから、大学周辺で捕獲される害獣の捕獲、と殺、解体の様子を実際に現地で見学するフィールドワークを計画。
IPU1期生で捕獲、と殺、解体業を行っている株式会社どんぐり代表取締役石原佑基氏の協力の元、2021年11月にフィールドラーニングを実施しました。
このフィールドラーニングを通じて、「人間の都合で奪った命を大切にしてくれる人のもとへ届けたい」という学生の想いを込めたブランド「IPU Gibier(アイピーユージビエ)」が誕生。レザーだけではなくお肉や骨も活用したいという考えから、ジビエラーメンプロトタイプ試食会を開催。以後、ジビエパスタ、ジビエカレーパンの試食会を岡山市内の企業の協力により開催しました。
ロゴマークに込められた想い
ロゴマークは、シカとイノシシのサークルの中に、太陽、植物、花、野生動物でGibierの頭文字Gを表し、生物多様性を表現しています。
瀬戸地区でのサーキュラーエコノミーに挑戦するため、OKAYAMA-SETOとし、人と環境に配慮した県内外の企業・団体とのサステナブルサプライチェーン構築を目指しています。
SDGsの取組
目標4/「ジビエを身近にする命の授業」を産学連携で行い、誰でも参加できる試食イベントや試作品開発を行う。 KPI/2030年までに、小学校の教科書への掲載を目指す。 |
目標9/ジビエに関連する衣食住を網羅する商品・サービスを産学連携で開発する。 KPI/2030年までに、衣食住合わせて50アイテムの商品化を目指す。 |
目標11/大都市圏や海外とのつながりをつくり、地産地消から地産外商にシフトするサプライチェーンを構成する。 KPI/2030年までに、環太平洋地域の、アメリカ、カナダ、香港、ベトナム、ニュージーランドの5か国での販売を目指す。 |
目標12/人や環境に配慮したラセッテーなめしによるジビエレザーを普及させ、皮の廃棄や、クロム排水を削減する。また、傷があるのは「生きた証」とする消費者行動を啓発し、傷のあるレザーの廃棄も削減する。 KPI/2030年までに、岡山市における捕獲されたイノシシ・シカの焼却及び皮の廃棄をゼロ、クロムなめしもゼロにする。 |
目標17/中小企業からスタートし、産学連携につなげることができた取組を、産学官金とも連携し、マルチステークホルダー・パートナーシップによる補完を促進する。 KPI/2030年までに、この事例をロールモデルとし、47都道府県に広げる。 |